CGとデジタル全盛の今だからこそ押さえておきたいクラシックSF映画を勝手に紹介する50年代SF映画傑作選。今回は1986年トビー・フーパー監督作『スペースインベーダー』のオリジナル作品である『惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!』のレビューです。その独特な火星人描写からカルト作品扱いされているものの、実は少年を主人公に据えたジュブナイル映画の一面も。監督はウィリアム・キャメロン・メンジース。衝撃の結末を見逃すな!
『惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!/Invaders from Mars』
1953年公開/アメリカ映画
監督:ウィリアム・キャメロン・メンジース
原作:ジョン・タッカー・バトル
脚本:リチャード・ブレイク
出演 :ジミー・ハント、ヘレナ・カーター、オーサー・フランツ、モーリス・アンクラムなど
ストーリー
12歳のデイヴィッドは天体観測が趣味の少年。ある夜、家の近くに不思議な発光体が着陸するのを目撃する。原子力関連の研究所に働く科学者の父にそのことを告げるも「夢を見たんだろう」と相手にしてもらえない。しかし家族にも他言できない極秘のプロジェクトに関わっていた父は念のためとデイヴィッドが発光体が着陸したという場所に行ってみる。するとそこに突然穴が開いて、吸い込まれていってしまう。
翌朝、夫が帰ってこないことを不審に思ったデイヴィッドの母親は警察に連絡するも、やってきた二人の警官も同様の穴に吸い込まれてしまう。デイヴィッドと母親が心配するのか、突然父親が帰ってくる。一旦は安心するも普段と違い不機嫌で、首筋に妙な傷を発見したデイヴィッドに暴力まで振るう。まるで別人のようになってしまった父に怯えたデイヴィッドは部屋に戻るも、母親が父に連れられていき、そして穴に落ちていくのを望遠鏡で見てしまうのだった。
何か恐ろしいことが起こっていることを知ったデイヴィッドは警察署に助けを求めるが警察署長も外見は同じでも別人のようになっていた。そしてデイヴィッドが拘置所に放り込まれてしまう。しかしデイヴィッドの様子が尋常でないことから、ひとりの警官が精神科医のブレイクに連絡する。デイヴィッドと面会したブレイクは彼は嘘をついていないと判断し、彼を連れ出す。
そしてデイヴィッドは父の友人で天文学者のケルストンに助けを求める。そこでデイヴィッドは父が極秘裏に火星探索プロジェクトに関わっていたことを知らされる。人類による火星探索をやめさせるべく、火星人が侵略を開始したものと考えられた。かくして人類対火星人の戦いがはじまる。
レビュー
『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパーが1986年にリメイクした『スペースインベーダー』のオリジナル作品である本作『惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!』は少年の敏感な感性とその裏返しとしての不安定さをうまく利用した、スピード感あふれるホラーテイストのSF作品だ。監督は『風と共に去りぬ』の美術セットを担当したウィリアム・キャメロン・メンジース。
本作は異星人による人体乗っ取りを描いているのだが、53年公開であってそのジャンルの代表作である『ボディ・スナッチャー/恐怖の街(53年)』より3年早いことになる。もちろん50年代初頭という「マッカーシズム/赤狩り」の時代にあって、この異星人とは共産主義者そのもので、それに捕まった(=染まった)人々が無表情で非人間的なのは共産思想への恐れの表れとも見て取れる。そしてその社会の不安定さを子供の敏感な感受性を通して描いた点が本作の白眉と言える。本来は絶対にやってはいけないはずの「ハイスクール鬼面組」的終わり方も本作においては決して悪くない。そういった不安定な心情が物語のなかで描かれているし、決して単純なハッピーエンドで幕を閉じさせないことも当時の社会を強く反映している。
SFとホラーを少年特有の空想癖と結びつけ、それをただの夢で終わらせないという手法はドン・コスカレリ監督作「ファンタズム」やテリー・ギリアムの『バンデッドQ』を彷彿とさせる。
リメイク版『スペースインベーダー』同様にその火星人の奇妙なルックスに注目が集まりがちだが、物語は最初から休むことなく展開するスピード感のおかげで、都合よく動いていく事態もさほど気にならない。それでもやはり金魚鉢に入れられた金色の小型人面タコのような火星人には、美術関係で評価が高いウィリアム・キャメロン・メンジース監督だけに一周回って何か凄いものを見せられたような気にさえなる。それに比べるとリメイク版の火星人はやはりやりすぎなのだろう。
強引さが目立つ作品であるも、SFホラーとしてもジュブナイル作品としても絶品で、エンディングを筆頭に色々と考察するのが楽しい作品でもある本作。お見逃しなく。
ということで1953年公開の『惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!/Invaders from Mars』のレビューでした。今ではSF映画に少年少女が主人公として採用されることが珍しくありませんが、この作品がその走りと言えます。また火星人が派手に攻めてくるのではなく、徐々に人間社会に忍び込んでくるような恐怖は、やはり当時の共産主義への恐怖感と重ねずにはいられません。よく「SFでは人間が描けない」とか訳のわからないことを言う人たちがいるけど、一体何を見ているんでしょうか。SFだからこそこれほどリアルに当時の社会の見えざる恐怖を描けるのでしょう。これもクラシックSFの代表作ですので是非鑑賞してみてください。
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